なぜ、「人」を中心に置くのか

事業をつくるのは、結局、人だから。

これを書きながら、自分の中を探っています。なぜ私は、こんなにも「人」にこだわるのか。まだ、うまく言葉になっていません。とりあえず、過去を振り返るところから始めてみます。

私は以前、人を雇う立場でした。零細企業ながら、できる範囲でオフィスをかっこよく整え、福利厚生も充実させました。そうすれば、チームのモチベーションは自然と上がるはずだと思っていたからです。設備や制度を良くすること。それが、経営者としての自分の役目だと考えていました。

でも、それだけでは足りませんでした。何が足りなかったのか、当時の私には分かりませんでした。

何が足りなかったのか

今、改めて考えてみると、足りなかったのは、環境の良さではなく、「この会社の未来が、楽しそうかどうか」だったのかもしれません。まだ、これも仮説です。断定するには、少し自信がありません。

どれだけオフィスが快適でも、福利厚生が手厚くても、その先に見える景色にワクワクできなければ、人の心は離れていく。逆に、環境が多少不便でも、代表自身が本気で動いている姿に、人はついてきてくれることがある。そんな気がしています。人が本当についていくのは、制度ではなく、代表である自分自身の行動力や、人間的な魅力の方だったのではないか——今、そう思い始めています。

だとすると、商品より先に

もしこれが本当なら、一つ気づくことがあります。商品やサービスを磨くよりも先に、そこで働く人たちが幸せかどうかの方が、大切なのではないか、ということです。

どんなに優れた商品も、どんなに洗練されたプロモーションも、それをつくり、届けるのは人です。その人たちが、自分の仕事に納得していなければ、表面をどれだけ整えても、いずれどこかで綻びる。逆に、そこで働く人が自分の仕事に誇りを持ち、未来にワクワクしていれば、それは商品やサービスの端々に、自然とにじみ出るはずです。

だから、プロモーションをデザインする前に、まず「その会社で働く人たちが、今、幸せかどうか」を問うてみたい。今の私は、そう考えています。これは、きれいごとを言っているつもりはありません。自分自身が、経営者として一度、そこを見誤った経験があるからです。

まだ、答えは出ていません

あらゆるサービスは、人が考え、人が使います。そして、そのサービスを支えているのは、日々そこで働く人たちの心の状態です。この仮説が正しいのかどうか、私はまだ検証している最中です。だからこそ、「人」を中心に据えて、これからいろいろな会社に、実際に問いを立てにいこうと思っています。

——では、それはコンサルティングとは何が違うのか。次回は、その話を書きます。

デザイナーとして、表層だけをつくることへの違和感。

こう書くと、きっとこんな声が聞こえてきます。「デザインで仕事が取れなくなったから、対話とか、気づきとか言い出したのでは?」

正直に答えます。それは違います。数字から、お話しします。

デザイン事務所として、1クライアントあたりの単価を上げたり、自社商品に付加価値をつけたいがために、「ブランディング」や「伴走支援」という寄り添い方のビジネスを、私はやりたいわけではありません。当社も零細企業です。パンデミック後、一度は売上が下がりました。でも、そこから3期連続で前年を上回ってきました。下降線ではありません。マイクロカンパニーであることは変わりませんが……(頑張ります)。

そもそも、市場規模が小さい

話したいことは山ほどあるのですが、まずデータから見ていきます。

日本の法人数は約340万社。そのうち、広告・デザイン事業者は約9,000社、デザイナーは約20万人。市場規模は約4.75兆円です。一見、大きな数字に見えるかもしれません。でも、この市場を支えている事業者のほとんどは、5人以下の小さな会社です。

つまり、日本のデザイン業界そのものが、決して大きくない器の中で、無数の小さな事業者がひしめき合っている構造なのです。このデータから見えてくるのは、「デザインで食えなくなった」という個人の焦りの話ではありません。もともと、この業界には、たった一社が独り勝ちできるような広さがない、という構造の話です。

限界を感じたのは、デザインではありません

では、なぜ私は対話型のビジネスを始めようと思ったのか。

デザインに限界を感じたから、ではありません。デザインは、今も私が誇りを持ってやっている仕事です。限界を感じたのは、むしろ自分自身の側でした。打ち合わせの仕方、つまり聞き取り方です。

これまで私は、ヒアリングという形で、お客様の要望や課題をお聞きしてきました。でも、限られた時間の打ち合わせで引き出せるのは、多くの場合、すでに本人の中で整理された言葉だけです。本当に聞きたいのは、その手前にある、まだ言葉になっていない本音や、事業全体の輪郭でした。そこの解像度が低いまま進めたデザインは、どれだけ技術で仕上げても、どこかで芯を外します。

だから私は、対話型のビジネスを、デザインへの近道として始めることにしました。遠回りに見えるかもしれません。時間もかかります。それでも、前工程を丁寧にすることでしか、本当に届けたいデザインには辿り着けない。そう考えるようになったのです。

それでも、知識も経験も足りていません

ここも、正直に書きます。

デザインは、私にとって表層の仕事です。目に見えるものを扱う、勝手のわかる領域です。一方、対話は、人の心を扱う仕事です。誰かが、まだ言葉にできていないことに、対話の中で気づいていく。そこに立ち会うための知識も経験も、私にはまだ全然足りていません。これは謙遜ではなく、率直な自己評価です。

それでも、私はこの仕事を面白いと感じています。誰かが、自分でも気づいていなかった強みに、対話の中で自分で気づく瞬間。それに立ち会うことは、表層をきれいに整える仕事では、決して味わえないものでした。

可能性の可視化が必要なのは、私自身かもしれません

ここまで書いてきて、一つ気づいたことがあります。

「可能性の可視化」——このサービスを一番必要としているのは、実は私自身かもしれません。十数年、表層のデザインだけをやってきた自分の中にも、まだ言葉にできていない可能性が、たぶんあります。知識も経験も足りないまま、それでも面白いと思って飛び込んでいる今の私は、他でもない、自分自身に問いを立てている最中なのだと思います。

——次回04は、なぜ私がここまで「人」にこだわるのか、その理由を書きます。

「ブランド」という言葉の語源をご存じでしょうか。

もとは、牧場で自分の牛と他人の牛を見分けるために押した、焼き印だと言われています。英語の brand は、その焼き印を指す古い言葉から来ていて、つまりブランドの出発点は、「他と識別すること」でした。

だからでしょうか。多くのデザイナーは、ブランディングを「識別できることや統一感をつくること」だと考えています。ロゴを整え、色を決め、書体を揃え、どこを切り取っても同じ表情に見えるようにする。
これは正しい仕事です。私自身、デザイナー時代は整えることに心血注いでいました。

でも、キャリアを重ね、企業の課題を解決をしたいと思うようになりデザインの役割やクリエイターとしての視点を変えるようになりました。

今回は実例を挙げながらお話しします。

志賀高原のホテル シャレー志賀様のブランディングから紐解きます。

 

識別の、その前にあるもの

識別は、実はいちばん最後の工程です。ロゴや色や書体で「他と見分けがつく」ようにできるのは、伝えるべき中身が、すでに定まっているからにほかなりません。

ところが実際には、その手前が抜け落ちていることが少なくない。「そもそも、何を識別させるのか」。その会社が何を大事にし、何を信頼の拠りどころにしてきたのか。そこが見つからないまま統一感だけを整えても、出来上がるのは、なんだか整ったデザインです。

「意味」ではなく、「気づき」

ここまで、私は「意味」という言葉を使いたくなります。でも、正直に言うと、それも少し違うと思っています。意味とは、外から名づけて固定するものだからです。「これは、こういう意味です」と誰かが答えを与えた途端、そこから先の広がりが止まってしまう。

私がやろうとしていることは、そこに”意味を与える”ことではありません。対話の中で、その会社自身が、まだ言葉にできていなかったことに、
“ご自身で気づく”そのお手伝いをさせていただいているだけです。

気づきは、内側から立ち上がるものであるべきで、対話を通じて、徐々にアウトラインが見えてきます。

対話を通じて、シャレー志賀様での私の答えは「オーナーご夫婦」でした。
以前WEBではお部屋の魅力や周辺の魅力など、商品説明をきれいに作り込まれサイトでした。
対話を重ねながら気付いたオーナーご夫婦のホテルに対しての思いや自然への敬意が深く、お二人を全面だすことで、
解像度が上がり信頼獲得につながりました。
とくに効果が上がったのが「採用」でした。オーナーの人となり、ホテル歴史、志賀高原の自然が物語を通じて共感していただきました。

 

——とはいえ、こう書くと、こんな声も聞こえてきそうです。「デザインで食えなくなったから、そんなことを言っているのでは?」。次回は、その問いに、正直に答えます。

なぜ、私たちはデザインから始めないのか。

失敗の話から振り返ってってみます。

十数年前、私は友人のエンジニアと会社を立ち上げました。まだ「AI」という言葉が出はじめた頃で、その可能性に夢を描いて、あるサービスを企画しました。けれど、知識も、経験も、資金も、何もかもが足りなかった。サービスを立ち上げることすらできないまま、一緒に始めた仲間は去っていきました。(今でも仲はいい)

当時の私は、他責思考でした。うまくいかないのは環境のせい、状況のせいだと思っていた。自分がチームをまとめられていなかったことに、長いあいだ気づけませんでした。

失敗が残した、ひとつの問い

その失敗を、私は何年も引きずりました。そして時間をかけて、ようやく分かったことがあります。あの頃の私は、答えを”決めつけて”いたのです。自分は分かっているつもりで、問い直すことをしていなかった。

今食う仕事を優先し、福利厚生を充実させればチームのモチベーションが上がると思っていました。
しかし、大切だったのは「この会社の未来が楽しそう」かということに当時全く気づいていませんでした。

うまくいかなかった本当の理由は、能力や資金以前に、「問う」という姿勢が自分になかったことだった。——皮肉なことに、あの失敗こそが、私に「問い」というものの大切さを教えてくれました。

あれから10年あまり。世界は、AI無しでは成り立たないほどに変わりました。私はAIに触れ、山小屋に籠って本を読みながら、もう一度、自分の仕事を根っこから問い直しました。この、答えの手前で立ち止まって問いを立てる作業を、私は「問いの設計」と呼んでいます。

デザインは、答えを見せる技術

私はグラフィックデザインを仕事にしてきました。だからこそ、はっきり言えます。デザインとは、答えを見える形にする技術です。伝えたいことが定まっていれば、ロゴも、写真も、言葉も、迷いなく選べる。

けれど、その「伝えたいこと」自体がまだ曖昧なまま、見せ方だけを先に整えようとすると、表面はきれいでも、誰の心にも残らないものになります。それは化粧であって、その会社自身にはなりません。かつての私が答えを決めつけていたように、問いを飛ばしてデザインから入ると、同じことが起きるのです。

だから私たちは、デザインの前に、まず問いを立てます。「この会社が大事にしてきたものは何か」「なぜ、それをやっているのか」。良い問いは、本人たちがまだ言葉にできていないもの、当たり前すぎて価値だと気づいていないものの方へ、目を向けます。

可視化は、そこから始まる

問いが立って、答えが見えてくると、その後のデザインは驚くほど強くなります。伝えるべきことが定まっているから、根拠を持って選べる。私がデザインを捨てるわけではないのは、そのためです。捨てたのではなく、順番を変えただけなのです。

「可能性の可視化」。まだ見えていないものを、見える場所へ連れ出す。その最初の一歩は、いつも問いです。

——では、その問いの先にある「ブランディング」を、私はどう考えているのか。世間で言われているものと、私の考えは、少し違います。次回は、その話を書きます。


初めて自分で企画したグラフィックファシリテーションで、
私が見つけた「これからやりたいこと」。

ある夏の日、私は長野県内のある建設会社にいました。会場は古民家。3名の職人さんとサポートチーム3名の方々が同じ方向を向いて座り、語られる言葉を、その場でグラフィックファシリテーション担当のacoさんが文字と絵に描き取っていく。壁には、全長7mほどの一枚の絵が、2時間半かけて少しずつ伸びていきました。

 

これは、私が自分で企画し、運営した、初めてのグラフィックファシリテーションの場でした。

グラフィックファシリテーションそのものに初めて出会ったのは、その一年半ほど前、2025年の1月のことです。そのときはまだ見学する側でしたが、語られた言葉が絵になって立ち上がっていく感覚が忘れられず、いつか自分の手で場をつくってみたいと思うようになりました。それを、ようやくこの夏に実現させたのが、この日でした。

そして正直に言えば、私はこの日を境に、自分がこれから何をやりたいのかが、はっきりしてしまったのです。

 

私はもともとグラフィックデザイナーです。

ロゴをつくり、写真を選び、きれいに”見せる”ことを仕事にしてきました。でもその仕事を重ねるほど、ずっと引っかかっていたことがあります。見せ方を磨く前に、そもそも「何を見せるべきか」の設計(デザイン)も重要で、表面だけでなく上流工程から企業様と歩みたいと思うようになりました。

今回の絵の前で、私はようやく順番が分かった気がしました。

デザインの前に、まず問いを立てる。会社の中に眠っている、まだ言葉になっていない価値を、対話で掘り起こして、目に見えるところへ連れ出す。それが定まってから、はじめてデザインの出番が来る。私がやりたいのは、この”手前”の仕事です。
そこを丁寧に時間をかけて行いたいと思いましたし、企業様にも時間と費用をかけていただけるよう提案していきたいです。

とりわけ、地方の小さな会社ほど、その価値は仕組みではなく、人の中に眠っています。だからこそ、可視化が効く。私はこれから、そういう会社の中に、問いを持って入っていきたい。

「可能性の可視化」。まだ見えていない可能性を、一緒に見つける。

この連載は、私がこれから何をしていきたいのかを、10回にわたって書いていく試みです。

次回から、その中身を一つずつ、お話していきます。

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