第一章|まず、自分の仕事に問いを立てる。/ 03デザインで仕事が取れないから、始めたわけではない。
デザイナーとして、表層だけをつくることへの違和感。
こう書くと、きっとこんな声が聞こえてきます。「デザインで仕事が取れなくなったから、対話とか、気づきとか言い出したのでは?」
正直に答えます。それは違います。数字から、お話しします。
デザイン事務所として、1クライアントあたりの単価を上げたり、自社商品に付加価値をつけたいがために、「ブランディング」や「伴走支援」という寄り添い方のビジネスを、私はやりたいわけではありません。当社も零細企業です。パンデミック後、一度は売上が下がりました。でも、そこから3期連続で前年を上回ってきました。下降線ではありません。マイクロカンパニーであることは変わりませんが……(頑張ります)。
そもそも、市場規模が小さい
話したいことは山ほどあるのですが、まずデータから見ていきます。
日本の法人数は約340万社。そのうち、広告・デザイン事業者は約9,000社、デザイナーは約20万人。市場規模は約4.75兆円です。一見、大きな数字に見えるかもしれません。でも、この市場を支えている事業者のほとんどは、5人以下の小さな会社です。
つまり、日本のデザイン業界そのものが、決して大きくない器の中で、無数の小さな事業者がひしめき合っている構造なのです。このデータから見えてくるのは、「デザインで食えなくなった」という個人の焦りの話ではありません。もともと、この業界には、たった一社が独り勝ちできるような広さがない、という構造の話です。
限界を感じたのは、デザインではありません
では、なぜ私は対話型のビジネスを始めようと思ったのか。
デザインに限界を感じたから、ではありません。デザインは、今も私が誇りを持ってやっている仕事です。限界を感じたのは、むしろ自分自身の側でした。打ち合わせの仕方、つまり聞き取り方です。
これまで私は、ヒアリングという形で、お客様の要望や課題をお聞きしてきました。でも、限られた時間の打ち合わせで引き出せるのは、多くの場合、すでに本人の中で整理された言葉だけです。本当に聞きたいのは、その手前にある、まだ言葉になっていない本音や、事業全体の輪郭でした。そこの解像度が低いまま進めたデザインは、どれだけ技術で仕上げても、どこかで芯を外します。
だから私は、対話型のビジネスを、デザインへの近道として始めることにしました。遠回りに見えるかもしれません。時間もかかります。それでも、前工程を丁寧にすることでしか、本当に届けたいデザインには辿り着けない。そう考えるようになったのです。
それでも、知識も経験も足りていません
ここも、正直に書きます。
デザインは、私にとって表層の仕事です。目に見えるものを扱う、勝手のわかる領域です。一方、対話は、人の心を扱う仕事です。誰かが、まだ言葉にできていないことに、対話の中で気づいていく。そこに立ち会うための知識も経験も、私にはまだ全然足りていません。これは謙遜ではなく、率直な自己評価です。
それでも、私はこの仕事を面白いと感じています。誰かが、自分でも気づいていなかった強みに、対話の中で自分で気づく瞬間。それに立ち会うことは、表層をきれいに整える仕事では、決して味わえないものでした。
可能性の可視化が必要なのは、私自身かもしれません
ここまで書いてきて、一つ気づいたことがあります。
「可能性の可視化」——このサービスを一番必要としているのは、実は私自身かもしれません。十数年、表層のデザインだけをやってきた自分の中にも、まだ言葉にできていない可能性が、たぶんあります。知識も経験も足りないまま、それでも面白いと思って飛び込んでいる今の私は、他でもない、自分自身に問いを立てている最中なのだと思います。
——次回04
は、なぜ私がここまで「人」にこだわるのか、その理由を書きます。
