なぜ、私たちはデザインから始めないのか。

失敗の話から振り返ってってみます。

十数年前、私は友人のエンジニアと会社を立ち上げました。まだ「AI」という言葉が出はじめた頃で、その可能性に夢を描いて、あるサービスを企画しました。けれど、知識も、経験も、資金も、何もかもが足りなかった。サービスを立ち上げることすらできないまま、一緒に始めた仲間は去っていきました。(今でも仲はいい)

当時の私は、他責思考でした。うまくいかないのは環境のせい、状況のせいだと思っていた。自分がチームをまとめられていなかったことに、長いあいだ気づけませんでした。

失敗が残した、ひとつの問い

その失敗を、私は何年も引きずりました。そして時間をかけて、ようやく分かったことがあります。あの頃の私は、答えを”決めつけて”いたのです。自分は分かっているつもりで、問い直すことをしていなかった。

今食う仕事を優先し、福利厚生を充実させればチームのモチベーションが上がると思っていました。
しかし、大切だったのは「この会社の未来が楽しそう」かということに当時全く気づいていませんでした。

うまくいかなかった本当の理由は、能力や資金以前に、「問う」という姿勢が自分になかったことだった。——皮肉なことに、あの失敗こそが、私に「問い」というものの大切さを教えてくれました。

あれから10年あまり。世界は、AI無しでは成り立たないほどに変わりました。私はAIに触れ、山小屋に籠って本を読みながら、もう一度、自分の仕事を根っこから問い直しました。この、答えの手前で立ち止まって問いを立てる作業を、私は「問いの設計」と呼んでいます。

デザインは、答えを見せる技術

私はグラフィックデザインを仕事にしてきました。だからこそ、はっきり言えます。デザインとは、答えを見える形にする技術です。伝えたいことが定まっていれば、ロゴも、写真も、言葉も、迷いなく選べる。

けれど、その「伝えたいこと」自体がまだ曖昧なまま、見せ方だけを先に整えようとすると、表面はきれいでも、誰の心にも残らないものになります。それは化粧であって、その会社自身にはなりません。かつての私が答えを決めつけていたように、問いを飛ばしてデザインから入ると、同じことが起きるのです。

だから私たちは、デザインの前に、まず問いを立てます。「この会社が大事にしてきたものは何か」「なぜ、それをやっているのか」。良い問いは、本人たちがまだ言葉にできていないもの、当たり前すぎて価値だと気づいていないものの方へ、目を向けます。

可視化は、そこから始まる

問いが立って、答えが見えてくると、その後のデザインは驚くほど強くなります。伝えるべきことが定まっているから、根拠を持って選べる。私がデザインを捨てるわけではないのは、そのためです。捨てたのではなく、順番を変えただけなのです。

「可能性の可視化」。まだ見えていないものを、見える場所へ連れ出す。その最初の一歩は、いつも問いです。

——では、その問いの先にある「ブランディング」を、私はどう考えているのか。世間で言われているものと、私の考えは、少し違います。次回は、その話を書きます。


初めて自分で企画したグラフィックファシリテーションで、
私が見つけた「これからやりたいこと」。

ある夏の日、私は長野県内のある建設会社にいました。会場は古民家。3名の職人さんとサポートチーム3名の方々が同じ方向を向いて座り、語られる言葉を、その場でグラフィックファシリテーション担当のacoさんが文字と絵に描き取っていく。壁には、全長7mほどの一枚の絵が、2時間半かけて少しずつ伸びていきました。

 

これは、私が自分で企画し、運営した、初めてのグラフィックファシリテーションの場でした。

グラフィックファシリテーションそのものに初めて出会ったのは、その一年半ほど前、2025年の1月のことです。そのときはまだ見学する側でしたが、語られた言葉が絵になって立ち上がっていく感覚が忘れられず、いつか自分の手で場をつくってみたいと思うようになりました。それを、ようやくこの夏に実現させたのが、この日でした。

そして正直に言えば、私はこの日を境に、自分がこれから何をやりたいのかが、はっきりしてしまったのです。

 

私はもともとグラフィックデザイナーです。

ロゴをつくり、写真を選び、きれいに”見せる”ことを仕事にしてきました。でもその仕事を重ねるほど、ずっと引っかかっていたことがあります。見せ方を磨く前に、そもそも「何を見せるべきか」の設計(デザイン)も重要で、表面だけでなく上流工程から企業様と歩みたいと思うようになりました。

今回の絵の前で、私はようやく順番が分かった気がしました。

デザインの前に、まず問いを立てる。会社の中に眠っている、まだ言葉になっていない価値を、対話で掘り起こして、目に見えるところへ連れ出す。それが定まってから、はじめてデザインの出番が来る。私がやりたいのは、この”手前”の仕事です。
そこを丁寧に時間をかけて行いたいと思いましたし、企業様にも時間と費用をかけていただけるよう提案していきたいです。

とりわけ、地方の小さな会社ほど、その価値は仕組みではなく、人の中に眠っています。だからこそ、可視化が効く。私はこれから、そういう会社の中に、問いを持って入っていきたい。

「可能性の可視化」。まだ見えていない可能性を、一緒に見つける。

この連載は、私がこれから何をしていきたいのかを、10回にわたって書いていく試みです。

次回から、その中身を一つずつ、お話していきます。

購入から4年。来年の本格稼働に向けて、飯綱高原のアトリエの改修が始まりました。
と言ってもDIYなんですが・・・。

今年の夏休みはどこにも行かず3日間ひたすら解体をしておりました。
バールと丸ノコをずっと握っていたので手がパンパンです。
解体してみると思っていたよりはコンデション良くて良かったです。

さて、これからどのように変化していくのでしょうか。

 

平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

弊社、株式会社KICHIは長野市と東京を拠点に活動するブランディングカンパニーとして、皆様のご支援とご愛顧のもと、このたび無事に第12期を終えることができました。心より感謝申し上げます。

前期では、中小企業に特化したサポート体制を確立すべく自社商品作り着手し飯綱高原のアトリエの整備・新商品の開発もスタートいたしました。
2027年春頃には新しく生まれ変わるKICHIをお見せできると思います。

 

引き続き、皆様の温かいご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。末筆ではございますが、皆様のご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。

敬具

株式会社KICHI
代表取締役  太田伸幸

夏季休業のお知らせ
2026.8.13〜16とさせていただきます。

長野で映像をつくるということ。

MEAL RECORDS 小泉勝幸さんに聞いた、“感情設計”という映像の力

AIの進化によって、映像も文章も、以前よりずっと手軽につくれる時代になりました。
ではその中で、人が映像をつくる意味はどこに残るのか。

今回、長野市を拠点に映像制作を続ける MEAL RECORDS 代表・小泉勝幸さんにお話を伺いました。
小泉さんの生い立ちから、映像を始めたきっかけ、ブライダル撮影を経て、いまブランディングムービーへと軸足を移している理由まで。話を聞く中で見えてきたのは、映像とは単なる記録や演出ではなく、企業や人の輪郭を掘り起こすための手段だということでした。

音楽カルチャーの延長線上にあった映像

小泉さんは、もともと自動車整備士として働いた後、東京でレコード店勤務を経験し、23歳で長野に戻って独立しました。屋号の MEAL RECORDS にも、その音楽的なルーツが表れています。

映像を始めたきっかけは、自分で企画していた音楽イベントでした。
イベントを撮影し、編集し、次回の告知に使う。そんな実践から映像制作が始まったそうです。さらに中学生の頃には、スケートボード映像をVHSで編集していたという話もあり、映像表現はかなり早い段階から生活の中にあったことがうかがえました。

ブライダルから広告へ。

映像を“課題解決の手段”として捉え直す

仕事として本格化したのは、ウェディングのスライドショー制作から。
当時、一眼動画の表現が広がり始めた時代背景もあり、小泉さんは長野でも早い段階から映像の現場に入り込んでいきました。海外の映像表現にも刺激を受け、ルックを追いかける時期もあったといいます。

ただ、ブライダル市場の低迷を経て、現在は広告やブランディングムービーへと重心を移しています。
そこで強く意識するようになったのが、映像は作品である前に、課題解決の手段であるということでした。

クライアントは「映像をつくりたい」と言う。
けれど、なぜ必要なのか、誰に何を届けたいのかが曖昧なことも少なくない。だからこそ、企業の強みや弱み、競合との違い、抱えている課題を丁寧に掘り下げたうえで、企画を組み立てる必要がある。小泉さんの話からは、いまの映像制作に必要なのは見た目の美しさ以上に、設計の深さなのだと感じました。

採用動画で大切なのは、

“よく見せること”ではなく“ちゃんと伝わること”

この考え方は、採用動画にもよく表れています。
小泉さんが意識しているのは、会社を必要以上によく見せることではなく、その会社の空気や人間関係がきちんと伝わること。綺麗な言葉を並べるだけではなく、話し手が本当に納得して話しているかどうかまで見ているといいます。

求職者が見ているのは、表面的な演出ではなく、「ここで働けそうか」という感覚です。
ローカル企業にとって、この“体温”をどう伝えるかは、とても重要なテーマだと思います。

映像制作は、企業を言語化するプロセスでもある

今回特に印象に残ったのは、小泉さんが映像制作を、単なる納品物づくりではなく、企業を言語化する機会として捉えていたことです。

「なぜ映像をつくるのか」
「誰に届けたいのか」
「自社の強みと弱みは何か」

こうした問いに向き合うことで、経営者や組織自身が、自分たちの輪郭を見直していく。小泉さんは、映像とは「形のない思想を輪郭にするもの」だと話していました。非常に本質的な言葉だと思います。

AI時代にこそ問われる、

“感情設計”という視点

AIの登場で変わったのは、クライアントよりも、つくり手の側だと小泉さんは言います。
AIを使うことで、企画をより深く、より速く考えられるようになり、複数案を比較しながら精度を高められるようになったそうです。AIは代替ではなく、企画設計を補強する道具として機能している。そんな実感が印象的でした。

そして、いま小泉さんが特に力を入れているのが、ブランディングムービーにおける感情設計です。
いわゆる“シネマティック”を見た目の話ではなく、視聴者の感情をどう動かすかという設計の問題として捉えている。どこで引き込み、どこで緊張させ、どこで納得や感動に向かわせるのか。情報だけでは残らない時代だからこそ、この視点はますます重要になっていくのだと思います。

 

ローカルでつくる人の、これから

今回のインタビューを通して見えてきたのは、小泉さんが「映像を撮る人」から、「企業の本質を引き出す人」へと重心を移してきたことでした。
ルックから本質へ。記録からブランドへ。撮影技術から企画設計へ。その変化は、小泉さん個人のキャリアであると同時に、いまローカルで制作を続ける人間が向き合っている変化そのものでもあるように感じます。

AIで何でもそれっぽくつくれる時代だからこそ、
何を掘り下げるのか。
何を言語化するのか。
どんな感情を動かすのか。

そこに、人が関わる意味が残っていく。
MEAL RECORDS 小泉勝幸さんの歩みは、そのことを静かに示しているように思いました。

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小泉勝幸(Koizumi Katsuyuki) MEAL RECORDS代表。長野市出身。2006年開業。ブライダル映像で15年の実績を積み、現在は広告・ブランディングムービーを中心に、レンタルスタジオの運営など、映像を通じた多角的なクリエイティブ活動を展開。 公式サイト:https://mealrecords.jp

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