第二章 | 06企業の中には、まだ見えていない価値がある。
小さな会社ほど、その価値は人の中に眠っている。
ここから、話の向きが変わります。第一章は、私が自分の仕事に問いを立てる話でした。ここからは、あなたの会社と、どう問いを立てていくのかを書いていきます。
最初に、一つだけ問いを置かせてください。あなたの会社の強みは、何ですか。
デザインの仕事で経営者の方にこう伺うと、「うちは特にないですよ」「普通のことを、普通にやっているだけで」という答えが返ってくることが、少なくありません。謙遜もあると思います。ただ、それだけではない気がしています。本当に「ない」のではなく、「見えていない」のではないか。今の私は、そう考えています。
価値は、ないのではなく、見えていない
第0回で書いた建設会社の職人さんたちは、自分たちの仕事を「自己満」と呼んでいました。継ぎ目に手間をかける、手カンナで艶を残す。本人たちにとっては当たり前すぎて、価値だと思っていなかった仕事です。そして、協力業者さんの一言が場に入った瞬間、その「当たり前」が、本人たちにも否定できない強みとして立ち上がりました。
あの日見たものは、特別な会社の特別な出来事ではなかったのかもしれません。毎日続けていることほど、本人にとっては空気のようになる。空気は、自分では見えません。企業の中には、まだ見えていない価値がある。あの絵の前で、私はそう思いました。

なぜ、小さな会社ほど「人の中」にあるのか
大きな会社では、価値は少しずつ、仕組みの側へ移っていきます。マニュアル、制度、ブランドガイド、社内の共通言語。誰かが辞めても残るように、言葉にして、形にして、積み上げていく。
小さな会社は、その手前にいます。判断の基準は社長の頭の中にあり、仕事の質は職人の手の動きに宿り、お客様に選ばれる理由は、スタッフの何気ない気配りの中にある。仕組みになる前の価値が、そのまま人の中に、生のまま置かれている。「属人的」と言われると、弱みのように聞こえます。けれど、それは裏返せば、その会社にしかない価値が、まだ人の中に生きているということだと思うのです。
第04回でも書いたように、私自身、小さな会社の代表として、人は仕組みよりも人についてくるのだと、後から気づきました。小さな会社の価値は、きっと同じ場所にあります。
眠っている場所は、たぶん三つある
どこに眠っているのか。まだ仮説の段階ですが、今の私には、三つの場所が見えています。
- 手が覚えていること。 長年やってきた人の、段取りやこだわり。本人は「普通」だと思っているので、言葉にされたことがありません。
- 経営者の頭の中にだけある構想。 日々の業務に追われて、まだ誰にも話していない、事業の方向や願い。話していないどころか、自分でも整理できていないことがあります。
- 他の人だけが知っている評判。 お客様や協力業者さんは気づいているのに、本人たちの耳には届いていない、「あの会社の、ここがいい」という声。
どれも、新しく作るものではありません。もう、そこにあるものです。

見えないままだと、何が起きるか
見えていない価値は、伝えられません。採用の場で、うちの魅力を聞かれて言葉に詰まる。お客様に、価格以外の選ばれる理由を説明できない。社員同士でも、「うちらしさ」が人によってばらばらのまま走っている。広告やデザインにお金をかける前に、まずここが揃っていない会社が、実はとても多いのではないか。そう感じています。

可視化とは、すでにあるものを、連れ出すこと
だから私は、「可能性の可視化」という言葉を使っています。価値を新しくつくることではありません。人の中に眠っているものを、見える場所へ連れ出すことです。
ただ、自分の当たり前は、自分では語れません。誰かの問いが入り、誰かの言葉に照らされたときにはじめて、姿を現します。では、その価値を、実際にどうやって掘り起こすのか。
——次回は、私がどんな「問い」を持って会社の中に入っていくのかを、書いていきます。
